三島由紀夫短篇の新潮文庫收録状況

 三島由紀夫の長篇は全て文庫本で現在も刊行され續けてゐるといふのは知られてゐるが、ふと短篇のはうはどうなのだらうと思つて調べてみた。短篇集はほぼ全て新潮文庫で出され、自選短篇集である二册「花ざかりの森・憂国」「真夏の死」のほか、「鍵のかかる部屋」「女神」「殉教」「ラディゲの死」「岬にての物語」と全部で七册も出され、大部分の短篇はそこに收録されてゐると言へる。

 そこで今回、「決定版 三島由紀夫全集」の目次を、新潮文庫の短篇集の目次と照らし合せてみた。その一覽を以下に示す。

 

大空のお婆さん
蛙のはりつけ
熊蜂の家
″水″の身の上話
緑色の夜
酸模
座禪物語
墓參歸り
曉鐘聖歌
春光


心のかゞやき
公園前
鳥瞰圖
仔熊の話
彩繪硝子 →「鍵のかかる部屋」
でんしや
幼年時
花山院
花ざかりの森 →「花ざかりの森・憂国
苧菟と瑪耶 →「岬にての物語」
青垣山の物語
玉刻春
みのもの月 →「ラディゲの死」
祈りの日記 →「鍵のかかる部屋」

 

世々に殘さん
曼陀羅物語
檜扇
朝倉
中世における一殺人常習者の遺せる哲學的日記の拔萃 →「花ざかりの森・憂国
繩手事件
中世
エスガイの狩
菖蒲前
黒島の王の物語の一場面
岬にての物語 →「岬にての物語」

ドン・ファン
煙草 →「真夏の死」
耀子
輕王子と衣通姫 →「殉教」
戀と別離と
夜の仕度
サーカス →「真夏の死」
ラウドスピーカー
春子 →「真夏の死」
婦徳
接吻 →「女神」
傳説 →「女神」
白鳥 →「女神」
哲學 →「女神」

 

蝶々 →「女神」
殉教 →「殉教」
親切な男
家族合せ
人間喜劇
頭文字 →「岬にての物語」
慈善 →「鍵のかかる部屋」
寶石賣買
好色
罪びと
不實な洋傘
山羊の首 →「ラディゲの死」
獅子 →「殉教」
幸福といふ病氣の療法
大臣 →「ラディゲの死」
戀重荷 →「女神」
毒藥の社會的効用について →「殉教」
魔群の通過 →「ラディゲの死」
侍童 →「女神」
天國に結ぶ戀
訃音 →「鍵のかかる部屋」
舞臺稽古

薔薇
退屈な旅
親切な機械 →「岬にての物語」
孝經
火山の休暇 →「岬にての物語」
怪物 →「鍵のかかる部屋」
花山院 →「ラディゲの死」

果實 →「鍵のかかる部屋」
鴛鴦 →「女神」
修學旅行
日曜日 →「ラディゲの死」
遠乘會 →「花ざかりの森・憂国
孤閨悶々
日食
食道樂
牝犬 →「岬にての物語」
女流立志傳
家庭裁判
偉大な姉妹 →「ラディゲの死」
箱根細工 →「ラディゲの死」
椅子 →「岬にての物語」
死の島 →「鍵のかかる部屋」
翼 →「真夏の死」
右領收仕候
手長姫
朝顏 →「ラディゲの死」
携帶用
離宮の松 →「真夏の死」
クロスワード・パズル →「真夏の死」
學生歌舞伎氣質
近世姑氣質
金魚と奧樣
眞夏の死 →「真夏の死」
二人の老孃
美神 →「鍵のかかる部屋」
江口初女覺書 →「鍵のかかる部屋」
雛の宿 →「女神」
旅の墓碑銘 →「ラディゲの死」

 

急停車 →「殉教」
卵 →「花ざかりの森・憂国
不滿な女たち →「岬にての物語」
花火 →「真夏の死」
ラディゲの死 →「ラディゲの死」
陽氣な戀人
博覽會
藝術狐
鍵のかかる部屋 →「鍵のかかる部屋」
復讐 →「ラディゲの死」
詩を書く少年 →「花ざかりの森・憂国
志賀寺上人の戀 →「岬にての物語」
水音 →「岬にての物語」
S・O・S
海と夕燒 →「花ざかりの森・憂国
新聞紙 →「花ざかりの森・憂国
商ひ人 →「岬にての物語」
山の魂 →「鍵のかかる部屋」
屋根を歩む
牡丹 →「花ざかりの森・憂国
青いどてら
十九歳 →「岬にての物語」
足の星座
施餓鬼舟 →「ラディゲの死」
橋づくし →「花ざかりの森・憂国
女方 →「花ざかりの森・憂国
色好みの宮
貴顯 →「真夏の死」

百萬圓煎餅 →「花ざかりの森・憂国
スタア →「殉教」

 

憂國 →「花ざかりの森・憂国

帽子の花
魔法瓶
月 →「花ざかりの森・憂国
葡萄パン →「真夏の死」
眞珠
自動車
可哀さうなパパ
雨のなかの噴水 →「真夏の死」
切符

月澹莊綺譚 →「岬にての物語」
三熊野詣 →「殉教」
孔雀 →「殉教」
朝の純愛 →「女神」
仲間 →「殉教」
英靈の聲
荒野より
時計
蘭陵王 →「鍵のかかる部屋」

 

 かうして見るとかなりの短篇が新潮文庫に收められてゐることがわかるが、未收録のものもそれなりにあるやうだ。尤も、最晩年の「英靈の聲」「荒野より」などは他の社の文庫本で現在も刊行されてゐるので、その全てが全集でしか讀めないといふわけではない。

 意外だつたのが晩年の力作であり映畫化もされた中篇「劍」が、現在刊行されてゐるどの文庫本からも洩れてしまつてゐることで、過去には幾度か表題作になつてゐるのだが、現在ではその全てが絶版になつてしまつてゐる。他に嘗て表題作だつたものとしては「夜の仕度」「寶石賣買」などが未收録のままだ。全集に當る際には、これらを優先して讀むと良いかもしれない。

安部公房の新潮文庫收録作品

安部公房の作品は新潮文庫で多く刊行されてゐるが、意外にも現在では絶版になつてゐるものも幾つかあるらしいことに最近氣付いた。初版の刊行年を括弧内に記し、刊行年順に收録作品を竝べた。青色にしたものが、現在絶版となつてゐるものである。

 

・他人の顔(1968)

・壁(1969)

・けものたちは故郷をめざす(1970)

・第四間氷期(1970)

・飢餓同盟(1970)

・幽霊はここにいる・どれい狩り(1971)

・水中都市・デンドロカカリヤ(1973)

・R62号の発明・鉛の卵(1974)

・無関係な死・時の崖(1974)

終りし道の標べに(1975)

・石の眼(1975)

・人間そっくり(1976)

・夢の逃亡(1977)

・燃えつきた地図(1980)

砂の女(1981)

箱男(1982)

・密会(1983)

・笑う月(1984

・友達・棒になった男(1987)

・カーブの向う・ユープケッチャ(1988)

・緑色のストッキング・未必の故意(1989)

・方舟さくら丸(1990)

・死に急ぐ鯨たち(1991)

・カンガルー・ノート(1995)

 

尚、各絶版作品について簡單に紹介してゐる記事も見つけたのでリンクを貼つておく。安部公房の作品については私もまだ上に示した内の數册を讀んだに過ぎないが、いづれは全てを入手して讀みたいものである。

 

意外と絶版になっている安部公房の小説|日々の栞

https://plutocharon.hatenablog.com/entry/2018/05/13/122707

Amazon KDPによる電子書籍出版の振り返り(平成三十一年/令和元年)

 令和元年も終りに近づいたので、例年の如く、永文堂に於ける電子出版の振り返りを書いてみることとする。今年の賣上は、以下の通りである。

・一月…… 四册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』一册、『煙草と惡魔』一册
・二月…… 三册 『地に叛くもの』一册、『修道院の秋』一册、『煙草と惡魔』一册
・三月…… 五册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』二册、『靜かなる暴風』一册、『父を賣る子』一册
・四月…… 一册 『地に叛くもの』一册
・五月…… 五册 『地に叛くもの』二册、『靜かなる暴風』一册、『手品師』二册
・六月…… 三册 『地に叛くもの』一册、『手品師』一册、『涯なき路』一册
・七月…… 三册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』一册、『煙草と惡魔』一册
・八月…… 二册 『靜かなる暴風』一册、『煙草と惡魔』一册
・九月…… 三册 『地に叛くもの』一册、『手品師』二册
・十月…… 五册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』一册、『靜かなる暴風』一册、『二人の文學青年』二册
・十一月……二册 『地に潜むもの』一册、『二人の文學青年』一册
・十二月……四册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』一册、『靜かなる暴風』一册

 合計四十册である。前年は三十七册であつたので、微増といふ結果となる。買つて下さつた方々には心より感謝を申し上げたい。
 今年の新刊は五月の久米正雄『手品師』と、十月の新井紀一『二人の文學青年』の二册だつた。いづれも賣上は芳しくなく、新井の兵隊・プロレタリア文學は豫想通りであつたが、久米のはうは現状として青空文庫の登録作品數も多くはなく、且つ平成二十九年末にゲーム「文豪とアルケミスト」に實裝されたため、この作家の作品集は、或る程度の賣上は見込めるかと思つたのだが、豫想は外れて新井と殆ど差のない結果となつた。

 尚、消費税率引上げのためか、ロイヤリティが改定されて、二百圓の電子書籍の場合、六十五圓であつたのが六十四圓になつた。廉價の上に多量に賣れるものでもないだけ、一圓の差は矢張り大きい。今後、値上げも含めて檢討してみたいと思ふ。

  そして賣上は、矢張り島田清次郎『地上』の一強である。特に十二月には既刊の三册を一度にまとめ買ひして下さつた方もをられた。現在は第四部『燃ゆる大地』の翻刻作業の最中であり、十二月十五日現在、全十章中の第九章に差し掛かつたところである。主人公はここから最終卷まで、革命家の野島民造といふ人物になるのだが、これも出版すれば、或る程度は繼續的に細々と賣れてゆく電子書籍となるであらう。
 來年からは社會人となるので電子出版も頻度は減るであらうが、『燃ゆる大地』は令和二年前半邊りまでの出版を目指したい。續く『我れ世に勝てり』についても、既に全頁のスキャンは完了してをり、來年には翻刻に取り掛かる豫定である。
 そして四月には、初めてのレビューが投稿された。投稿者の無平さんは、六二七字に渡り『地に叛くもの』の感想を熱く書いて下さり、強い感謝の念を禁じ得ない。來年には新たな讀者からのレビューが得られることを期待したい。

 ・令和二年一月八日追記……十二月二十四日に『地に叛くもの』が新たに一册賣れ、令和元年に賣れた本は計四十一册となつた。

手品師

手品師

  • 作者:久米 正雄
  • 出版社/メーカー: 永文堂
  • 発売日: 2019/05/29
  • メディア: Kindle
 

 

二人の文学青年

二人の文学青年

  • 作者:新井 紀一
  • 出版社/メーカー: 永文堂
  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: Kindle
 

 

《文フリ・平成三十年冬》髙﨑洋『鏡像 ―ミラード―』/あつしれんげ『退屈な日々の過ごしかた』

 平成三十年冬に「文学フリマ」で購入した小説同人誌の、全ての感想を書かうと思ひながら早一年が經つてしまつた。そこで今からでも、少しづつではあるが書いていかうと思ふ。取り敢へず二作品を紹介する。

 

髙﨑洋『鏡像 ―ミラード―』(霧虹文芸社

 非常に暗い色調で展開される小説であり、これはカヴァーの裏に書かれた「親からは嫌われ、学校ではクラスメイトからいじめられていた。誰も信じることができず、ひとりでもがき苦しんでいた俺の前に、あるとき突然、ひとりの少女が現れる」から始まる粗筋からも察せられることであらう。私は髙﨑氏の同人のメンヘライⅢ氏の説明と、この粗筋とに惹かれて購入した。

 概要をごく簡單に説明すれば、松浦リョウといふ少年が、「自分が松浦ハルカといふ少女として生れてゐた世界」に何らかの原因で轉移してしまつたといふのがこの物語の骨子である。名前の漢字はどちらも遼と書くのだが、それぞれ讀みは異なつてゐる。

 高校生である主人公の松浦リョウの人生は、先述の粗筋からもわかるやうに悲慘極まるもので、その主因は母親にある。「自分が産み落とした責任として、高校を出るまでの学費は出してやる。家にも住ませてやる。ただしそれ以外の、母親としての一切の関わりを断たせてもらう」とリョウに言ひ放つほどに、自分の子を嫌ひ拔いてゐる。何故そこまで嫌ふのかといへば、本當は我が子には女として生れてほしかつたためであり、これが明らかになる過程では、女として生れなかつたのならば子は死んでもいいとまで考へてゐたこともわかる。そのために女として生れた(正確には女にした、と言ふはうが正しいのだが)ハルカには、リョウとは正反對の愛情を注ぎ込むわけである。

 母親に溺愛されて伸び伸びと育つたハルカの人生は、精神的虐待を受け續けたリョウの人生と紙一重の關係にあり、これがこの作品で言ふ鏡の表裏となつてゐる。男と女といふ性別、人生の明暗、リョウとハルカは元々は同一人物でありながら、餘りに對照的な存在であるが、眞に恐ろしいのは、それらは結局「母親の一存」に起因するといふことであらう。二人の人生をこれほどまでに違ふものとしてしまつたのは、手術による性別變更といふ架空の要素を除いても、ほぼこの異常な母親一人のためといつてよく、親といふ人間がどれほど子供の人生を左右してしまふかといふことについて思ひを馳せざるを得ない。

 結果としてリョウは完全な人間不信に陷つてをり、高校を出た後は自分一人の力で生きていくことを決意してゐる。一方で愛情を周圍から注がれた故に、優しく誰でも素直に信じてしまふ存在となつたのがハルカであり、前松龍二といふ惡黨らから危ふく輪姦をされかけたといふのもこれが原因である。これは人間の惡意を強く描き出した小説でもあるのだが、互ひに窮地から助け出してくれる存在を見つけられたことで、救濟をも描いてゐる。

 しかしこの作品は、決して他者からの救濟を描いたものではない。結局リョウとハルカは同一人物であるからだ。それは自分がハルカの世界に呼ばれた理由を知つた際の「本当に助けが必要なとき、他人は力になってくれない。自分を救えるのは、自分だけだ。」といふリョウの言葉に現れてゐる。他者を信じなかつたリョウの人生觀は、かうしてみると最後まで變ることはなかつたやうに思はれる。最後に殘るのはハルカ一人であるのだから最早人生觀が變る必要もないのかもしれないが、結局のところ二人の行動が自己救濟に留まつてゐるのは、やや寂しくも思はれた。但しこれこそが、この作品の主題なのではないだらうか。

 母親も懺悔の言葉を口にするものの、リョウは彼女の改心を信じてはゐない。他者は助けてはくれない、人間の根本はさう簡單に變ることはない。一見ハッピーエンドに見える終り方ではあるが、最後までこの二つの價値觀はぶれてゐないことを、見逃してはならないであらう。

 

あつしれんげ『退屈な日々の過ごしかた』(サングローズ)

 或る雨の日、地面に橫たはる「私」の身體を、野良犬が喰つていく。その樣子を、喰はれる側である「私」による客觀的な視点から捉へた掌篇小説である。

 表紙に描かれてゐるのは雨が波紋を描く地面にしやがみ込む少女であり、長い髮やスカートの描寫から見ても、「私」はこの少女と考へてよいのであらう。既に彼女の身體は「食べられる箇所も少なくなってきている」「あらわになった骨に黒ずんだ肉がへばりついていた」といふ状態になつてゐるが、本人は平然としてそれを觀察してゐる。死體となつた少女の身體は、「觀察」してゐる、スカートを履いた「私」とは別であるやうだ。「わたし」は既に死んだ幽靈のやうな存在であるのかもしれない。

 しかし四頁のこの小説の中で彼女の背景が語られることはなく、ただそこには「今」だけがある。限りなく小さく纏められた、「退屈」な世界。そこには子供の頃の、自分が見てゐた世界が重なり合ふやうに思はれた。「わたし」が自らの死體を觀察する樣子も、あたかも子供が昆蟲か何かを一心に見つめ續けてゐるやうでもある。靜かな、どこか懷かしいものを感じさせられる作品だつた。

『長篇三人全集』(新潮社)一覽

 『長篇三人全集』は昭和初期に、圓本流行に乘じて新潮社から發行された全二十八卷の圓本全集で、當時の流行作家であつた中村武羅夫三上於菟吉加藤武雄の三人の長篇小説を集めてゐる。いづれの作家も現在では殆ど忘れ去られ讀まれることも少なくなつた作家ではあるが、當時の人氣は相當なもので、この全集も繰り返し新聞に大きな廣告を打ち、大成功を收めたといふ。裝幀は岩田專太郎によるもので、各卷の冒頭には原色刷りの口繪が一枚附されてゐる。

 今回、この全集の作品とその口繪を一覽にすることを試みた。國會圖書館でも全卷がデジタル化されてゐるわけではなく、一部の口繪や頁は缺けてゐるものなどもあつたため、不完全なものとはなつたが、ネット古本屋の商品情報などを元に可能な限り補完した。

 現在、第二十二卷『火の翼』の口繪が誰によるものかが不明であるので、御存知の方は御教示下されば幸ひである。また、口繪を描いた畫家の一人である大橋月皎に就いても、前から調べてゐるのだが生歿年が明らかでなく、國會圖書館のデータベースでも表記されてゐない。彼の描いた美しい繪が、著作權の有無が不明な孤兒作品であるのは實に惜しいので、これに就いても御存知の方は是非御教示頂きたい。

 

第一卷 地靈・戀愛時代・結婚時代(中村武羅夫)口繪・(伊東深水
第二卷 沈默の塔・春遠からず(加藤武雄)口繪・「沈默の塔」の千草(林唯一)
第三卷 惱める魂・麗人(三上於菟吉)口繪・「惱める魂」(山川秀峰
第四卷 青春(中村武羅夫)口繪・「青春」の靜子(高畠華宵
第五卷 銀の鞭・炬火(加藤武雄)口繪・「銀の鞭」の三千代と康平(岩田專太郎)
第六卷 情火・美玉(三上於菟吉)口繪・「情火」の幸子(竹中英太郎
第七卷 青春狂想曲・戀愛行進曲(中村武羅夫)口繪・「戀愛行進曲」の芳子(富田千秋)
第八卷 星の使者・白虹(加藤武雄)口繪・「星の使者」の波子(蕗谷虹兒)
第九卷 見果てぬ夢・銀座事件(三上於菟吉)口繪・「見果てぬ夢」のふみ子と文吉(岩田專太郎)
第十卷 靜かなる曙・三光鳥(中村武羅夫)口繪・「靜かなる曙」の照子(田中良)
第十一卷 明眸・無憂樹(加藤武雄)口繪・「明眸」の隆子(大橋月皎)
第十二卷 戀と地獄・炎を踏む女(三上於菟吉)口繪・「戀と地獄」の藤田詮三(大橋月皎)
第十三卷 新結婚哲學・白鳩(中村武羅夫)口繪・「新結婚哲學」の由紀子(山川秀峰
第十四卷 銀河・緑の城(加藤武雄)口繪・「銀河」の道子(田中良)
第十五卷 樂園の犧牲・掠奪(三上於菟吉)口繪・「樂園の犧牲」の京子(大橋月皎)
第十六卷 霧の海・假面の女(中村武羅夫)口繪・「霧の海」の桂子と美智子(富田千秋)
第十七卷 地上の愛・緑の地平(加藤武雄)口繪・(岩田專太郎)
第十八卷 彼女の太陽・焔の歌・血鬪(三上於菟吉)口繪・(大橋月皎)
第十九卷 美貌・地獄の花嫁(中村武羅夫)口繪・(林唯一)
第二十卷 愛の戰車・夢の娘(加藤武雄)口繪・「愛の戰車」の凉子(林唯一)
第二十一卷 王冠(夏子の卷)(中村武羅夫)口繪・「王冠」の夏子(田中良)
第二十二卷 火の翼(加藤武雄)口繪不明
第二十三卷 人肉果・前奏・酒場の客(三上於菟吉)口繪・「人肉果」の瓔子(富田千秋)
第二十四卷 王冠(吉彌の卷)(中村武羅夫)口繪・「王冠」の吉彌(田中良)
第二十五卷 秋夕夢・狹き門(加藤武雄)口繪・「秋夕夢」の美沙子(蕗谷虹兒)
第二十六卷 太陽の娘・愛慾の霧(三上於菟吉)口繪・(林唯一)
第二十七卷 砂の塔(中村武羅夫)口繪・(林唯一)
第二十八卷 曙の歌・孔雀草(加藤武雄)口繪・(須藤重)

 

《メモ》
中村武羅夫(1886‐1949)
三上於菟吉(1891‐1944)
加藤武雄(1888‐1956)
山川秀峰(1898‐1944)
高畠華宵(1888‐1966)
・富田千秋(1901‐1967)
・須藤重(1898‐1946)
伊東深水(1898‐1972)
・林唯一(1895‐1972)
・岩田專太郎(1901‐1974)
竹中英太郎(1906‐1988)
・蕗谷虹兒(1898‐1979)
・田中良(1884‐1974)
・大橋月皎(生歿年不明)

Amazon KDPによる電子書籍出版の振り返り(平成三十年下半期)

 平成三十年も愈々終りに近づいた。ここで半年毎の恆例となりつつある、Amazon KDPに於ける電子書籍出版の、賣上の振り返りをやつていかうと思ふ。
 因みに平成三十年後期は、九月に出した島田清次郎著『靜かなる暴風(地上・第三部)』以外に出版したものはない。自分の關心が、當初よりは復刻電子出版から逸れたといふのが理由としては大きく、この一册が電子書籍化に時間の掛かる長篇小説であつたこと、自身が多忙であつたことなどもそれに加はるのだが、そのやうな言ひ訣に興味のある讀者はゐないであらうから、これ以上はやめておく。但し今後、電子書籍出版からやや遠ざかるにしても、やめるといふことはないので安心して頂きたい。來年、出版點數が皆無となつたり、賣上點數が極端に少なくなつたりした場合、年末にまとめてこの記事を書くことになる可能性はあるが。
 さて前置きはこのぐらゐにして、賣上のはうを見ていかう。 

・七月…… 二册 『地に潜むもの』一册、『涯なき路』一册
・八月…… 一册 『地に叛くもの』一册
・九月…… 五册 『地に叛くもの』二册、『靜かなる暴風』三册
・十月…… 六册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』一册、『靜かなる暴風』一册、『涯なき路』一册、『修道院の秋』一册
・十一月……四册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』一册、『靜かなる暴風』一册
・十二月……三册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』一册、『靜かなる暴風』一册

 計二十一册。一册當りのロイヤリティは六十五圓なので、一三六五圓が收入となる。前期に賣れたのは十六册であるので、意外なことに賣上は伸びる結果となつた。
 前期の振り返りでも同樣であつたが、やはり島清の強さは壓倒的だ。少ないながらも、賣れた書籍の殆どは島清の『地上』シリーズが占めてゐる。これも前期と同じ分析となるが、嘗てのベストセラー作家であるといふのも大きいのであらうし、短篇集よりは長篇小説のはうが需要があるのかもしれない。いづれ他の作家の長篇小説も復刻して、どれほど賣れるかを確かめてみたいものだ。
 その外、岡田三郎の短篇集『涯なき路』も前期に續いて多少賣れた。岡田は青空文庫にも一つも作品が入つてゐない、現代では忘れられた作家であるが、關心を持つ人も多少ゐるといふことであらうか。
 現在は島清の『燃ゆる大地(地上・第四部)』と他の作家の短篇集の作業を、少しづつ竝行して行つてゐる状況であるが、發行できるのがいつになるかはまだ不明である。『地上』シリーズの全卷復刻は、ここまで出した者としては何としても成し遂げたいところである。
 最後に、永文堂の電子書籍を購入して下さつた方々に、心より感謝を申し上げたい。よいお年を。

 

 

Amazon KDPによる電子書籍出版の振り返り(平成三十年上半期)

 Amazon KDPで電子書籍の出版を始めて、一年以上が經たうとしてゐる。前年の賣上成績は以前の記事で紹介したが、平成三十年も半分を過ぎたので、今年に入つてからの六ヶ月の賣上をまた紹介していきたいと思ふ。
 因みに今年に入つてからは四册の本を出してゐる。島田清次郎の長篇小説『地に潜むもの――地上・第一部』及び『地に叛くもの――地上・第二部』、そして相馬泰三の短篇集『夢と六月』、岡田三郎の短篇集『涯なき路』である。これで販賣商品數は計九册となつた。あと一册加はれば遂に二桁となるわけである。
 このうちの、特に島田清次郎は大變に興味深い人物で、詳しいことは風野春樹先生の著書『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』(本の雑誌社)を讀んで頂きたいのだが、書下ろし長篇小説『地上』シリーズで一世を風靡しながらも、傲岸不遜な言動で周圍から孤立していき、最後は海軍少將の娘とのスキャンダルで失脚、早發性痴呆(統合失調症)患者として精神病院に收容された後、夭折したといふ人生を送つてゐる。六册で成る『地上』シリーズのうち、第一部に當る『地に潜むもの』は有志により青空文庫に收録されてゐたが、第二部以降は非常に入手困難な状況となつてゐたため、今回は第二部までを復刻することとした。
 原本から一頁々々をデータとして取り込み、それを『読取革命』(ソフト)で讀み取らせた後、取り込んだデータと照合しながら校正していくといふ作業はかなりに大變なものではあつたが、その甲斐あつて一年前の永文堂創立を決めたときからの念願であつた『地に叛くもの』復刻を成し遂げることができた。第一部のはうは青空文庫のテキストを利用させて頂いたが、こちらも原本と照合して相當箇所の表記の變更を行つた。ツイッターの永文堂アカウント(@Eibundo)で出版案内をツイートした際には、風野先生や千野帽子先生のリツイートを頂き感激したものであつた。
 さて、前置きが長くなつたが賣上を見ていかうと思ふ。

・一月…… 零册

・二月…… 四册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』二册

・三月…… 六册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』三册、『煙草と惡魔』二册

・四月…… 四册 『地に潜むもの』二册、『夢と六月』二册

・五月…… 一册 『修道院の秋』一册

・六月…… 一册 『涯なき路』一册

 計十六册。やはり最も賣れたのは島清の長篇であつた。短篇集よりも長篇のはうが賣れ易いといふのはわかるし、その知名度や(島清は忘れられたベストセラー作家といふ扱ひではあり、確かに往年の人氣を思へば驚くほどに忘却されてゐるが)入手の難しさにおいても群を拔いてゐるのは頷けるところである。
 その他、去年に出したものも何册か賣れてゐるのは有難いことではあるが、相馬と岡田の短篇集はやはり苦戰してゐる。兩者とも現代では間違ひなく「忘れられた作家」に屬するであらうし、話題となることも殆どない作家ではあるので、やはり不思議ではない。岡田に至つては青空文庫に一作も作品がなく、『涯なき路』は一册丸ごとの一からの復刻となつてゐる。軍隊生活を舞臺とした短篇が主に收められてをり、中々面白いものではあるのだがやはり嚴しいやうだ。とはいへアーカイブとしての役割を重視して電子復刻を行つてゐるわけであるので、これからも同樣の「忘れられた作家」に焦點を當てていく方針には變りはない。買つて下さつた方には心より感謝を申し上げたいところである。
 價格は二百圓で統一してをり、Amazonからのロイヤリティは一册當り六十五圓、この半年間で千四十圓である。ここでも電子出版といふことの嚴しさがわかるであらう。一般的なアルバイトでは一時間そこらで稼げてしまふ額である。
 現在は『靜かなる暴風――地上・第三部』の入力を終へ、校正に入らうとしてゐるところだが、大學のはうも忙しく、いつ出版できるかは未定である。先日、著作權保護期間が歿後五十年から七十年に延長されたことは非常に憂鬱であり、やる氣も下るといふものである。あれによつて忘れられる作家や作品は急増することは間違ひないが、最早滔々と述べ立てる氣にもならない。これから二十年經つまでは、既にパブリックドメインとなつた作品を復刻していくほかないだらうが、それよりも早く日本がTPPを拔け、五十年に戻ることを切願するものである。

 

地に潜むもの――地上・第一部

地に潜むもの――地上・第一部

 

 

夢と六月

夢と六月