Amazon KDPによる電子書籍出版の振り返り(平成三十年上半期)

 Amazon KDPで電子書籍の出版を始めて、一年以上が經たうとしてゐる。前年の賣上成績は以前の記事で紹介したが、平成三十年も半分を過ぎたので、今年に入つてからの六ヶ月の賣上をまた紹介していきたいと思ふ。
 因みに今年に入つてからは四册の本を出してゐる。島田清次郎の長篇小説『地に潜むもの――地上・第一部』及び『地に叛くもの――地上・第二部』、そして相馬泰三の短篇集『夢と六月』、岡田三郎の短篇集『涯なき路』である。これで販賣商品數は計九册となつた。あと一册加はれば遂に二桁となるわけである。
 このうちの、特に島田清次郎は大變に興味深い人物で、詳しいことは風野春樹先生の著書『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』(本の雑誌社)を讀んで頂きたいのだが、書下ろし長篇小説『地上』シリーズで一世を風靡しながらも、傲岸不遜な言動で周圍から孤立していき、最後は海軍少將の娘とのスキャンダルで失脚、早發性痴呆(統合失調症)患者として精神病院に收容された後、夭折したといふ人生を送つてゐる。六册で成る『地上』シリーズのうち、第一部に當る『地に潜むもの』は有志により青空文庫に收録されてゐたが、第二部以降は非常に入手困難な状況となつてゐたため、今回は第二部までを復刻することとした。
 原本から一頁々々をデータとして取り込み、それを『読取革命』(ソフト)で讀み取らせた後、取り込んだデータと照合しながら校正していくといふ作業はかなりに大變なものではあつたが、その甲斐あつて一年前の永文堂創立を決めたときからの念願であつた『地に叛くもの』復刻を成し遂げることができた。第一部のはうは青空文庫のテキストを利用させて頂いたが、こちらも原本と照合して相當箇所の表記の變更を行つた。ツイッターの永文堂アカウント(@Eibundo)で出版案内をツイートした際には、風野先生や千野帽子先生のリツイートを頂き感激したものであつた。
 さて、前置きが長くなつたが賣上を見ていかうと思ふ。

・一月…… 零册

・二月…… 四册 『地に潜むもの』二册、『地に叛くもの』二册

・三月…… 六册 『地に潜むもの』一册、『地に叛くもの』三册、『煙草と惡魔』二册

・四月…… 四册 『地に潜むもの』二册、『夢と六月』二册

・五月…… 一册 『修道院の秋』一册

・六月…… 一册 『涯なき路』一册

 計十六册。やはり最も賣れたのは島清の長篇であつた。短篇集よりも長篇のはうが賣れ易いといふのはわかるし、その知名度や(島清は忘れられたベストセラー作家といふ扱ひではあり、確かに往年の人氣を思へば驚くほどに忘却されてゐるが)入手の難しさにおいても群を拔いてゐるのは頷けるところである。
 その他、去年に出したものも何册か賣れてゐるのは有難いことではあるが、相馬と岡田の短篇集はやはり苦戰してゐる。兩者とも現代では間違ひなく「忘れられた作家」に屬するであらうし、話題となることも殆どない作家ではあるので、やはり不思議ではない。岡田に至つては青空文庫に一作も作品がなく、『涯なき路』は一册丸ごとの一からの復刻となつてゐる。軍隊生活を舞臺とした短篇が主に收められてをり、中々面白いものではあるのだがやはり嚴しいやうだ。とはいへアーカイブとしての役割を重視して電子復刻を行つてゐるわけであるので、これからも同樣の「忘れられた作家」に焦點を當てていく方針には變りはない。買つて下さつた方には心より感謝を申し上げたいところである。
 價格は二百圓で統一してをり、Amazonからのロイヤリティは一册當り六十五圓、この半年間で千四十圓である。ここでも電子出版といふことの嚴しさがわかるであらう。一般的なアルバイトでは一時間そこらで稼げてしまふ額である。
 現在は『靜かなる暴風――地上・第三部』の入力を終へ、校正に入らうとしてゐるところだが、大學のはうも忙しく、いつ出版できるかは未定である。先日、著作權保護期間が歿後五十年から七十年に延長されたことは非常に憂鬱であり、やる氣も下るといふものである。あれによつて忘れられる作家や作品は急増することは間違ひないが、最早滔々と述べ立てる氣にもならない。これから二十年經つまでは、既にパブリックドメインとなつた作品を復刻していくほかないだらうが、それよりも早く日本がTPPを拔け、五十年に戻ることを切願するものである。

 

地に潜むもの――地上・第一部

地に潜むもの――地上・第一部

 

 

夢と六月

夢と六月