三島由紀夫短篇の新潮文庫收録状況

 三島由紀夫の長篇は全て文庫本で現在も刊行され續けてゐるといふのは知られてゐるが、ふと短篇のはうはどうなのだらうと思つて調べてみた。短篇集はほぼ全て新潮文庫で出され、自選短篇集である二册「花ざかりの森・憂国」「真夏の死」のほか、「鍵のかかる部屋」「女神」「殉教」「ラディゲの死」「岬にての物語」と全部で七册も出され、大部分の短篇はそこに收録されてゐると言へる。

 そこで今回、「決定版 三島由紀夫全集」の目次を、新潮文庫の短篇集の目次と照らし合せてみた。その一覽を以下に示す。

 

大空のお婆さん
蛙のはりつけ
熊蜂の家
″水″の身の上話
緑色の夜
酸模
座禪物語
墓參歸り
曉鐘聖歌
春光


心のかゞやき
公園前
鳥瞰圖
仔熊の話
彩繪硝子 →「鍵のかかる部屋」
でんしや
幼年時
花山院
花ざかりの森 →「花ざかりの森・憂国
苧菟と瑪耶 →「岬にての物語」
青垣山の物語
玉刻春
みのもの月 →「ラディゲの死」
祈りの日記 →「鍵のかかる部屋」

 

世々に殘さん
曼陀羅物語
檜扇
朝倉
中世における一殺人常習者の遺せる哲學的日記の拔萃 →「花ざかりの森・憂国
繩手事件
中世
エスガイの狩
菖蒲前
黒島の王の物語の一場面
岬にての物語 →「岬にての物語」

ドン・ファン
煙草 →「真夏の死」
耀子
輕王子と衣通姫 →「殉教」
戀と別離と
夜の仕度
サーカス →「真夏の死」
ラウドスピーカー
春子 →「真夏の死」
婦徳
接吻 →「女神」
傳説 →「女神」
白鳥 →「女神」
哲學 →「女神」

 

蝶々 →「女神」
殉教 →「殉教」
親切な男
家族合せ
人間喜劇
頭文字 →「岬にての物語」
慈善 →「鍵のかかる部屋」
寶石賣買
好色
罪びと
不實な洋傘
山羊の首 →「ラディゲの死」
獅子 →「殉教」
幸福といふ病氣の療法
大臣 →「ラディゲの死」
戀重荷 →「女神」
毒藥の社會的効用について →「殉教」
魔群の通過 →「ラディゲの死」
侍童 →「女神」
天國に結ぶ戀
訃音 →「鍵のかかる部屋」
舞臺稽古

薔薇
退屈な旅
親切な機械 →「岬にての物語」
孝經
火山の休暇 →「岬にての物語」
怪物 →「鍵のかかる部屋」
花山院 →「ラディゲの死」

果實 →「鍵のかかる部屋」
鴛鴦 →「女神」
修學旅行
日曜日 →「ラディゲの死」
遠乘會 →「花ざかりの森・憂国
孤閨悶々
日食
食道樂
牝犬 →「岬にての物語」
女流立志傳
家庭裁判
偉大な姉妹 →「ラディゲの死」
箱根細工 →「ラディゲの死」
椅子 →「岬にての物語」
死の島 →「鍵のかかる部屋」
翼 →「真夏の死」
右領收仕候
手長姫
朝顏 →「ラディゲの死」
携帶用
離宮の松 →「真夏の死」
クロスワード・パズル →「真夏の死」
學生歌舞伎氣質
近世姑氣質
金魚と奧樣
眞夏の死 →「真夏の死」
二人の老孃
美神 →「鍵のかかる部屋」
江口初女覺書 →「鍵のかかる部屋」
雛の宿 →「女神」
旅の墓碑銘 →「ラディゲの死」

 

急停車 →「殉教」
卵 →「花ざかりの森・憂国
不滿な女たち →「岬にての物語」
花火 →「真夏の死」
ラディゲの死 →「ラディゲの死」
陽氣な戀人
博覽會
藝術狐
鍵のかかる部屋 →「鍵のかかる部屋」
復讐 →「ラディゲの死」
詩を書く少年 →「花ざかりの森・憂国
志賀寺上人の戀 →「岬にての物語」
水音 →「岬にての物語」
S・O・S
海と夕燒 →「花ざかりの森・憂国
新聞紙 →「花ざかりの森・憂国
商ひ人 →「岬にての物語」
山の魂 →「鍵のかかる部屋」
屋根を歩む
牡丹 →「花ざかりの森・憂国
青いどてら
十九歳 →「岬にての物語」
足の星座
施餓鬼舟 →「ラディゲの死」
橋づくし →「花ざかりの森・憂国
女方 →「花ざかりの森・憂国
色好みの宮
貴顯 →「真夏の死」

百萬圓煎餅 →「花ざかりの森・憂国
スタア →「殉教」

 

憂國 →「花ざかりの森・憂国

帽子の花
魔法瓶
月 →「花ざかりの森・憂国
葡萄パン →「真夏の死」
眞珠
自動車
可哀さうなパパ
雨のなかの噴水 →「真夏の死」
切符

月澹莊綺譚 →「岬にての物語」
三熊野詣 →「殉教」
孔雀 →「殉教」
朝の純愛 →「女神」
仲間 →「殉教」
英靈の聲
荒野より
時計
蘭陵王 →「鍵のかかる部屋」

 

 かうして見るとかなりの短篇が新潮文庫に收められてゐることがわかるが、未收録のものもそれなりにあるやうだ。尤も、最晩年の「英靈の聲」「荒野より」などは他の社の文庫本で現在も刊行されてゐるので、その全てが全集でしか讀めないといふわけではない。

 意外だつたのが晩年の力作であり映畫化もされた中篇「劍」が、現在刊行されてゐるどの文庫本からも洩れてしまつてゐることで、過去には幾度か表題作になつてゐるのだが、現在ではその全てが絶版になつてしまつてゐる。他に嘗て表題作だつたものとしては「夜の仕度」「寶石賣買」などが未收録のままだ。全集に當る際には、これらを優先して讀むと良いかもしれない。