國立國會圖書館へ行つて來た話

 先日、國立國會圖書館へ、利用者カードを作りに行つた。

 何故利用者になることにしたかといふと、最近になつて、近代の樣々な文學作品の翻刻をしたいと考へ始めたからで、自分としては主に、入手困難な作品を翻刻して簡單に入手出來るやうにしたいといふ考へであつたので、この場合、矢張り國會圖書館は利用すべきであることになる。

 さて、國立國會圖書館の最寄りは永田町驛である。地下鐵の入口を出て、圖書館を目指してしばらく歩くと、國會議事堂の姿が見えてくる。以前に見たのはいつであつたかと考へたが、恐らく最後に間近で目にしたのは六年程前であらう。國會圖書館はそのすぐ近くで、こんな場所にあるのかと驚いた。因みに此處に來るのは初めてである。

 流石國會圖書館だけあつて、敷地内に入ると、邊りには嚴肅な雰圍氣が漂つてゐるやうに感じられる。やや緊張しながら重々しい列柱の間を拔け、取り敢へず利用者入口と書かれた本館の入口へ入つた。

 何處でカードを作るのだらうと邊りを見廻すと、館員の人に「何をお探しですか?」と聲を掛けられる。利用者カードを作りに來たのですが、と答へると、「カードの作成はあちらです」と、外にある別の建物を指さされた。どうやらカードの作成は新館で行ふらしく、掲示をよく讀んでゐなかつたばかりに、早速恥をかいた。分りましたと答へ、慌ててこそこそと移動する。

 新館の入口に入るとすぐ館員の人がゐて、愛想よく用件を尋ねられたので、カードの作成といふ旨を傳へる。すると「現在の住所を證明出來るものをお持ちですか?」と聞かれ、持參した保險證を見ると以前の住所のままだつたのだが、大學の學生證の方は裏に現在の住所を書いてあつたため、これで良いといふことになつた。新規登録申込書を渡され、選擧の投票記載所のやうなところで記入する。メールアドレスの記入欄もあり、これは任意だつたのだが、利用者カードの期限が切れさうになると通知してくれるといふので記入しておく。期限は三年間である。

 それからこれを受付に持つていき、提示した保險證や學生證と念入りに見比べられて確認された後、番號札を渡されて待つことになつた。待ち時間はそれほど長くはなく、すぐにカードを受付で受け取ることが出來た。ここで館内のパソコンの使用に必要なパスワードも一緒に受け取つた。このパスワードはいつでもネット上で變更出來る。

 短い説明を受けたのち、奥にあるロッカー室へと進む。大きな荷物は持ち込むことが出來ず、ここに鞄などを預けるのである。ロッカーの使用には百圓玉が必要だが、これは使用後に返金される。メモ用の帳面と筆箱、カードとパスワードの書かれた書類、財布、携帶電話などを持つてロッカー室を出る。印刷や複寫には金がかかるので、財布は必要である。

 ロッカー室を出るとすぐ館内への入口で、機械にカードを當てて中へ入る。中は素晴らしい光景だつた。

 巨大な吹き拔けが建物を貫いてをり、天窓からは白い光が射し込んでゐた。向ひの部屋にもこちら側にも、多くのパソコンがずらりと竝べられてゐるのが見える。壁面には巨大な畫が飾られてゐた。壓倒されるやうな空間で、思はずしばし立ち止つて眺める。それからパソコンに向つた。

 パソコンはカードを機械の上に置き、パスワードを入力することで使用出來る。幾つかのデータベースが表示されたので、いつも使つてゐる「國立國會圖書館デジタルコレクション」を見る。自宅で見るのとは異なり、まだ著作權の切れてゐない書籍もここでは自由に見られるので、さながら天國である。古い戰前戰後の雜誌もここで見られる。

 印刷も出來るといふことだつたので、試しにやつてみることにする。私の選んだのは某文藝誌の中の短篇小説で、既にこの小説自體の著作權は切れてゐるものの、インターネットでは公開されてゐないものである。傍らに置かれたマニュアルを頼りにページ番號を入れ、印刷範圍を指定し、印刷の申し込みをしてみる。

 それからパソコンを閉ぢ、階段を降りてプリントアウトカウンターまで行く。印刷したい旨を告げ、椅子に坐つて待つ。ここでもそれ程待たされることはなく、カードの番號下四桁で呼ばれ、印刷物を受け取ることが出來た。五枚で税込七十五圓である。

 ここで氣になることがあつた。先程印刷する際、モニターに、印刷したものをネット上に掲載する際は、當館の許可を得なければならないといふ表示が出たのである。このことについて尋ねてみたく思ひ、金を拂つてから確かめてみた。すると奥から男性が出てきて、詳しく説明をしてくれるといふ。そのまま伴はれてその部屋を出、廊下を通つて奥の部屋へ通されたのだが、こんな特別な扱ひを受けたことに私はひどく恐縮してしまひ、まるで本を盜まうとして發覺したかのやうな恐ろしい思ひさへ感じた。

 しかし恐れることなど何もなく、通された部屋のカウンターで私は書類を見せられ、このやうなものを提出しなければならないのだといふ説明を受けた。男性の説明はとても親切であつた。

 しかし説明を受けても納得がいかないのは、單に國會圖書館内で印刷、複寫しただけのものであるのに、まるで國會圖書館が著作權を保有してゐるかのやうに、許可を得なければネットに掲載してはならないといふことであつた。これは著作權が切れてゐようがゐまいが同じことである。かうした疑問を感じながらも、前述の如く恐縮してゐたためについ質問をしそびれ、その後は早々に私は圖書館を後にしたのであつた。

 どうも尻切れトンボのやうな文章になつてしまつたが、中々樂しく、貴重な體驗であつた。印刷した資料のネット掲載については、その後色々と調べてみたので、リンクを貼つておく。結局、國會圖書館の許可を得なければ、國會圖書館内で印刷した資料は自由に掲載したりは出來ないやうである。もつと自由に使へるやうになるといいのだが、中々さうもいかないのかもしれない。

国立国会図書館所蔵資料の掲載/展示/放映/インターネット・ホームページ等への掲載を希望される方へ

http://www.ndl.go.jp/jp/service/copy_publication.html

国立国会図書館所蔵資料の復刻/翻刻を希望される方へ

http://www.ndl.go.jp/jp/service/copy_reprint.html