『長篇三人全集』(新潮社)一覽

 『長篇三人全集』は昭和初期に、圓本流行に乘じて新潮社から發行された全二十八卷の圓本全集で、當時の流行作家であつた中村武羅夫三上於菟吉加藤武雄の三人の長篇小説を集めてゐる。いづれの作家も現在では殆ど忘れ去られ讀まれることも少なくなつた作家ではあるが、當時の人氣は相當なもので、この全集も繰り返し新聞に大きな廣告を打ち、大成功を收めたといふ。裝幀は岩田專太郎によるもので、各卷の冒頭には原色刷りの口繪が一枚附されてゐる。

 今回、この全集の作品とその口繪を一覽にすることを試みた。國會圖書館でも全卷がデジタル化されてゐるわけではなく、一部の口繪や頁は缺けてゐるものなどもあつたため、不完全なものとはなつたが、ネット古本屋の商品情報などを元に可能な限り補完した。

 現在、第二十二卷『火の翼』の口繪が誰によるものかが不明であるので、御存知の方は御教示下されば幸ひである。また、口繪を描いた畫家の一人である大橋月皎に就いても、前から調べてゐるのだが生歿年が明らかでなく、國會圖書館のデータベースでも表記されてゐない。彼の描いた美しい繪が、著作權の有無が不明な孤兒作品であるのは實に惜しいので、これに就いても御存知の方は是非御教示頂きたい。

 

第一卷 地靈・戀愛時代・結婚時代(中村武羅夫)口繪・(伊東深水
第二卷 沈默の塔・春遠からず(加藤武雄)口繪・「沈默の塔」の千草(林唯一)
第三卷 惱める魂・麗人(三上於菟吉)口繪・「惱める魂」(山川秀峰
第四卷 青春(中村武羅夫)口繪・「青春」の靜子(高畠華宵
第五卷 銀の鞭・炬火(加藤武雄)口繪・「銀の鞭」の三千代と康平(岩田專太郎)
第六卷 情火・美玉(三上於菟吉)口繪・「情火」の幸子(竹中英太郎
第七卷 青春狂想曲・戀愛行進曲(中村武羅夫)口繪・「戀愛行進曲」の芳子(富田千秋)
第八卷 星の使者・白虹(加藤武雄)口繪・「星の使者」の波子(蕗谷虹兒)
第九卷 見果てぬ夢・銀座事件(三上於菟吉)口繪・「見果てぬ夢」のふみ子と文吉(岩田專太郎)
第十卷 靜かなる曙・三光鳥(中村武羅夫)口繪・「靜かなる曙」の照子(田中良)
第十一卷 明眸・無憂樹(加藤武雄)口繪・「明眸」の隆子(大橋月皎)
第十二卷 戀と地獄・炎を踏む女(三上於菟吉)口繪・「戀と地獄」の藤田詮三(大橋月皎)
第十三卷 新結婚哲學・白鳩(中村武羅夫)口繪・「新結婚哲學」の由紀子(山川秀峰
第十四卷 銀河・緑の城(加藤武雄)口繪・「銀河」の道子(田中良)
第十五卷 樂園の犧牲・掠奪(三上於菟吉)口繪・「樂園の犧牲」の京子(大橋月皎)
第十六卷 霧の海・假面の女(中村武羅夫)口繪・「霧の海」の桂子と美智子(富田千秋)
第十七卷 地上の愛・緑の地平(加藤武雄)口繪・(岩田專太郎)
第十八卷 彼女の太陽・焔の歌・血鬪(三上於菟吉)口繪・(大橋月皎)
第十九卷 美貌・地獄の花嫁(中村武羅夫)口繪・(林唯一)
第二十卷 愛の戰車・夢の娘(加藤武雄)口繪・「愛の戰車」の凉子(林唯一)
第二十一卷 王冠(夏子の卷)(中村武羅夫)口繪・「王冠」の夏子(田中良)
第二十二卷 火の翼(加藤武雄)口繪不明
第二十三卷 人肉果・前奏・酒場の客(三上於菟吉)口繪・「人肉果」の瓔子(富田千秋)
第二十四卷 王冠(吉彌の卷)(中村武羅夫)口繪・「王冠」の吉彌(田中良)
第二十五卷 秋夕夢・狹き門(加藤武雄)口繪・「秋夕夢」の美沙子(蕗谷虹兒)
第二十六卷 太陽の娘・愛慾の霧(三上於菟吉)口繪・(林唯一)
第二十七卷 砂の塔(中村武羅夫)口繪・(林唯一)
第二十八卷 曙の歌・孔雀草(加藤武雄)口繪・(須藤重)

 

《メモ》
中村武羅夫(1886‐1949)
三上於菟吉(1891‐1944)
加藤武雄(1888‐1956)
山川秀峰(1898‐1944)
高畠華宵(1888‐1966)
・富田千秋(1901‐1967)
・須藤重(1898‐1946)
伊東深水(1898‐1972)
・林唯一(1895‐1972)
・岩田專太郎(1901‐1974)
竹中英太郎(1906‐1988)
・蕗谷虹兒(1898‐1979)
・田中良(1884‐1974)
・大橋月皎(生歿年不明)