國立大學人文系學科廢止へ――學術研究の輕視

 文部科學省は平成26年8月、省内の「國立大學法人評價委員會」の議論を受けて、「教員養成系、人文社會科學系の廢止や轉換」を各大學に通達した。重大な事件であるが、驚いたことに殆ど騷ぎにはなつてをらず、東京新聞が9月2日に「国立大から文系消える?」といふ見出しで取り上げたぐらゐである。

 實際に文科省が發表した「国立大学法人評価委員会の答申」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/08/13/1350876_02.pdf)を確認すると、3頁目の「2.組織の見直しに関する視点」にかうある。

 ○ 「ミッションの再定義」を踏まえた速やかな組織改革が必要ではないか。特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むべきではないか。

 

 末尾の、社會的要請の高い分野といふのは理系の技術者等のことであらう。これは5月6日の、安倍晋三總理によるOECD閣僚理事會基調演説の内容と重なる。

 ……だからこそ、私は、教育改革を進めてゐます。學術研究を深めるのではなく、もつと社會のニーズを見据ゑた、もつと實踐的な、職業教育を行ふ。さうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考へてゐます。

 横濱國立大學教授の村井尚氏もブログ(http://tanshin.cocolog-nifty.com/)でこの問題を取り上げてゐる(国立大学がいま大変なことになっている)。

 近年では大學にも市場原理の波が押し寄せてゐるが、これほどの暴擧が果して許されるものなのであらうか。大學は技術者養成學校ではない。學術研究を輕視し、最高學府たる大學を、職業のためだけの教育の場にして良い筈がない。

 そもそも、安倍總理は「クールジャパン」を推し進め、日本文化を世界へ發信しようとしてゐる筈だ。それにも拘はらず、若者が文化を學ぶ機會を、場をなくさうとしてゐる。政府主導でこのやうな輕率な改革を進めてゆくやうでは、日本文化の未來は暗い。